2018年4月12日
こちら三重県柳原、三月下旬に美しく咲き誇った桜はすっかり葉桜となりました。
陽気な気候に昆虫や草花、ツバメたちも活発になっており、寂しいモノクロの冬が少しずつ色付けされていくようで、存分に春の訪れを実感しています。
冬をモノクロと表現してしまうのは、毎日変わらない酒蔵のルーティンワークで米・麹・醪といった「白」ばかりを相手にしているからでしょう。また、田圃の土は黒く、畔の雑草は枯れたセピア色のまま春を待つ、そんな景色がまさに、なのです。
そんなモノクロの冬のこと。
酒造りは十月より始まり、三月末に甑倒しを迎えました。醪は四十五本、私たちの製造数量の限界がこの辺りにあります。酒質は搾った時点で味乗り良いものが多く、二◯十七年度産の溶けやすい米を如実に表した結果となりました。酒屋八兵衛が目指すのは飲み飽き・飲み疲れのない酒。使用酵母を変更するなど今季は少しチャレンジした結果、搾り上がった酒に具体的な方向性を持たせる事ができたので先ずは良かったです。
酒造り開始早々、十月から十一月にかけて台風が二つも発生したり、二週間ずっと雨降りだったり。秋らしくない悪天候が続き前途多難な始まりでしたが、十二月に入ると好天が続き(なんと十二月中は一日しか雨が降っていません)、気温が低く空気が乾燥した最高の環境で酒造りを行うことが出来ました。年が開けてからも非常に良い天気の日が多く、吟醸造りにもよく締まった蒸米があがりました。しかし朝晩はとても寒く、毎年の事ながら炬燵を出て麹の検温に行くのがとてもつらい。
そうして仕事一筋で冬を過ごしていますが、喜びといえば搾ったお酒を晩酌する事。そうして毎日飲むからこそ、日常酒としての扱いやすさを求めています。それが生酒だったとしても、大雑把に飲んでも美味しいお酒でありたいのです。
さて徐々に春の気配が近づいてくる二月の雨水、今夏のテーマとしている自然農法での米作りを開始しました。まだ北風の吹くなか田んぼに行ってみると天道虫が土から出て雑草を上っているのを見つけ、モノクロの世界に紅一点、蔵の外では春に向けての準備が行われている事に嬉しくなりました。
それから約二ヶ月が経ち、田圃に溝を掘ったり耕作放棄地を開墾したりしているうちにすっかり気温も上がり、田んぼに向かう額にも汗が滲みます。二月を始まりとし、風に吹かれ、雨に打たれ、また酒を醸す。この一年を通して触れる事の出来る様々なエレメントを少しでもお届けできれば幸い、と、文章を書く事を始めました。
不定期的、粗末な内容ですが、お付き合い頂ければ嬉しいです。
元坂 新平